キミトド~border line~

1-変わり始めた世界

「ねぇ、凰……死ぬって痛いのかな」

 少女は、生き物だったモノを抱いて、その言葉をつぶやいた。

 少女が“それ”を見つけたのは、空き地だった。下校途中にいつも通る道。普段と変わらないはずの空間にぽつりと“それ”はあった。雨が降っていた。こんな雨の降る中、それは寂しく人生を終えた。そんな“それ”に死というものが強く感じられたのか、少女は一緒にいた少年に聞くともなしに呟いたのだ。

「……………」

 少年は何も言葉を返すことはできなかった。少女が言いたいことがなんとなく分かっていた。けれど、少年は何を言っていいかは分からなかった。
――自分は死んだことなんかない。
 と、少年は思う。当たり前だ。死んでしまったら、ここにはいることが出来ない。けれど、少年はもう一つ思うことがあった。
――けれど、死は怖いことじゃない

 少年は、死よりも怖いものがあった。それは、突き詰めていけば死と同じことかもしれない。けれど、少年はそれと死が別ものだと思っていた。

「ねぇ……死ぬってどういうことかな」

 少女は、別の言葉を口にする。今度は、はっきりと少年と向き合い答えを得ようとしていた。少女の顔からもそれと察することができた。そんな、少女にどのような答えを返せばいいのか少年は考える。ある一つの答えは、少年の中にあった。けれど、少年はあえてその答えとは違う答えを少女に応えた。

「死ぬって言うのは、終わりであって始まりじゃないのかな……だから、“それ”は終わりを向かえて、始まりに向かったんだよ」
「そうじゃないよ。だって、そんなはず、そんなはず……あるわけないよ」

 少年の応えに、少女ははっきりとした拒絶を示した。手を強く結び、少年をにらみつけ、少女は、必死に言葉を紡ぐ。

「死ぬって言うのは、そこまでで終わるってことだよ。そこからまた始まったりなんかしたりしないよ。絶対にそんなことなんかない。絶対に…… あるはずないよ。あるはずないんだよ……」

 声は、今にも泣き出しそうに震えていた。それでも、はっきりと少女の言葉は、少年に届いた。それは、大気を震わせて届く声ではなく、少年の心に直接響いた。

 痛いほど少女の言いたいことが少年には分かった。単純な音という情報ではなく、その場にある情報から少年は感じた。痛いほどという言葉も単なる言葉のあやではない。本当に痛いのだ。少女の心から叫ばれる声が少年の心を針のように突き刺すのだ。だから、少年は、少女に優しい声をかけることにした。死んでしまったそれにできる唯一のことをしてやるためにも。

「じゃぁさぁ」

 しかし、その言葉は途中で他の声で掻き消されてしまった。少年の発する言葉よりもさらに強い意志を込めた言葉が放たれたからだ。それは、少女の声。幼さが残る声ながらも確固とした意志のある声が辺りに響く。

「だからさぁ……この子の生きた証を作ってあげようよ。たとえ、そこで終わって、始まりがなくても証があればこの子は……」

 そこまで言うと、少女は堰を切ったように泣き出した。雨が少女の涙を洗うかのように強くなっていた。

2011-03-31 01:45:00( 更新 2011-03-31 01:45:00 )